2010年04月21日
長崎平戸/映画「幸橋」:原作(4)
~幸橋(4)~
~平戸観光協会(外)~
バカップルは大はしゃぎで去り、疲れきった七海は事務所の外で
膝を丸め座り込んでいる。そこへ吉田がやってくる。
吉田は、七海に缶コーヒーを差し出す。
「どげんした?」
「(コーヒーを受け取り)あっ、ありがとうございます。」
「今日はヒマやけん、もうよかよ。早く帰って少し休んだほうがよか。」
「いや、大丈夫です。」
「大丈夫じゃなか。・・・・・・・邦夫君は元気か?」
「・・・・・はい・・・・。」
「・・・そっか。」
吉田は、多くは語らない七海の辛い状況が手に取るに分かっている。
「そういえば、土屋君って君たちの同級生やったよね?」
「えっ?そうですが。」
「彼、すごかね。弓道大会で大活躍しよるね。今日も新聞に出とるよ。」
「隆二が?」
「なんね?知らんやったと?ほれ。」
吉田は、隆二が掲載されている新聞を七海に渡し
「あっ。」
「弓道・・・・もう一度始めたら?」
「・・・・・。」
「邦夫のためにも・・・・・。なっ、やったほうがよか。」
「・・・・・・いまは・・・。」
吉田の言葉にためらってしまう七海。
今は、とても弓を持つ気力も精神的な余裕もなかった。
~常灯の鼻(じょうとうのはな)~
400年前の石垣がそのまま残る灯台後。
事務所を出た七海は、石段に腰掛け鮮やかな海を見つめている。
七海は、思い出したくもない過去の記憶がよみがえってくる。
××× 病 室 ×××
心電図の”ピッピッ”という音。
全身包帯に巻かれた邦夫がベッドに横たわっている。
傍には、七海が邦夫の手を握り締め悲しそうにしている。
××× 診察室 ×××
「ご主人は、多発性骨折、出血性ショック。全身折れていない骨
を探すのが大変なくらいです。出血もかなりひどく臓器がショック
症状を起こしています。全力は尽くしますが、あの高さから落ちた
んだ・・・・・万が一のことも考えておいてください・・・・。」
「・・・・そんな・・・。」
××× 病 室 ×××
ベッドに横たわる邦夫の顔を辛そうに見つめる七海。
七海は邦夫の手を握り締め呆然としている。
何日も昏睡状態が続き、七海の精神状態も限界を越え、諦めの
気持ちが湧き上がり始めた・・・・。と、そのとき握り締めた邦夫の
手が”ぴくっ”と微かに動いた。
「・・・邦夫?・・・邦夫。わかる?私よ、七海よ!・・・邦夫。邦夫!」
必死に名前を呼び続ける七海。その声に応えるように邦夫の目が
ゆっくりと開いていく。微かに邦夫の口元が動いている。
「・・・・うっ、痛っ・・・。」
「邦夫!私がわかる?」
「・・・・うぅ~・・・・くらい・・・・・・・暗い・・・・。」
「えっ?なに?・・・邦夫?」
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
七海は、我に返り”常灯の鼻”の石段からゆっくりと立ち上がり車
の方に向っていく。
車に乗り込んだ七海は、ルームミラーで自分の顔を見つめる。
しばらくして、ミラーに映った自分の目の周りを触っている。
またも、忌まわしい記憶がよみがえってしまう。
××× 診察室 ×××
「一生ですか?」
「はい。一生、光を感じることもできません。二度とカメラを覗くことも。」
「・・・手術・・・手術すれば見えますよね。ねぇ先生。私の目。・・・・
私の目・・・私の目は片方でもいい。先生、私の目の角膜を移植して
ください!」
「お気持ちはわかりますが無理なんです。右目は網膜はく離で完全に
ダメ、左目は瞳孔は大丈夫でも視神経が萎縮していてダメなんです。
角膜を移植しても見えないんです。」
「・・・そんな・・・彼の目は大事なんです。」
「とにかく今は、目よりも命を取り留めることが大事なんです。」
「・・・・そんな・・・・。」
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
七海は、ミラーに映る疲れ切った自分の姿を見て深いため息をつく。
「ふぅ~~・・・。」
気を取り直し、エンジンをかける七海。
>次回につづく
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~平戸観光協会(外)~
バカップルは大はしゃぎで去り、疲れきった七海は事務所の外で
膝を丸め座り込んでいる。そこへ吉田がやってくる。
吉田は、七海に缶コーヒーを差し出す。
「どげんした?」
「(コーヒーを受け取り)あっ、ありがとうございます。」
「今日はヒマやけん、もうよかよ。早く帰って少し休んだほうがよか。」
「いや、大丈夫です。」
「大丈夫じゃなか。・・・・・・・邦夫君は元気か?」
「・・・・・はい・・・・。」
「・・・そっか。」
吉田は、多くは語らない七海の辛い状況が手に取るに分かっている。
「そういえば、土屋君って君たちの同級生やったよね?」
「えっ?そうですが。」
「彼、すごかね。弓道大会で大活躍しよるね。今日も新聞に出とるよ。」
「隆二が?」
「なんね?知らんやったと?ほれ。」
吉田は、隆二が掲載されている新聞を七海に渡し
「あっ。」
「弓道・・・・もう一度始めたら?」
「・・・・・。」
「邦夫のためにも・・・・・。なっ、やったほうがよか。」
「・・・・・・いまは・・・。」
吉田の言葉にためらってしまう七海。
今は、とても弓を持つ気力も精神的な余裕もなかった。
~常灯の鼻(じょうとうのはな)~
400年前の石垣がそのまま残る灯台後。
事務所を出た七海は、石段に腰掛け鮮やかな海を見つめている。
七海は、思い出したくもない過去の記憶がよみがえってくる。
××× 病 室 ×××
心電図の”ピッピッ”という音。
全身包帯に巻かれた邦夫がベッドに横たわっている。
傍には、七海が邦夫の手を握り締め悲しそうにしている。
××× 診察室 ×××
「ご主人は、多発性骨折、出血性ショック。全身折れていない骨
を探すのが大変なくらいです。出血もかなりひどく臓器がショック
症状を起こしています。全力は尽くしますが、あの高さから落ちた
んだ・・・・・万が一のことも考えておいてください・・・・。」
「・・・・そんな・・・。」
××× 病 室 ×××
ベッドに横たわる邦夫の顔を辛そうに見つめる七海。
七海は邦夫の手を握り締め呆然としている。
何日も昏睡状態が続き、七海の精神状態も限界を越え、諦めの
気持ちが湧き上がり始めた・・・・。と、そのとき握り締めた邦夫の
手が”ぴくっ”と微かに動いた。
「・・・邦夫?・・・邦夫。わかる?私よ、七海よ!・・・邦夫。邦夫!」
必死に名前を呼び続ける七海。その声に応えるように邦夫の目が
ゆっくりと開いていく。微かに邦夫の口元が動いている。
「・・・・うっ、痛っ・・・。」
「邦夫!私がわかる?」
「・・・・うぅ~・・・・くらい・・・・・・・暗い・・・・。」
「えっ?なに?・・・邦夫?」
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
七海は、我に返り”常灯の鼻”の石段からゆっくりと立ち上がり車
の方に向っていく。
車に乗り込んだ七海は、ルームミラーで自分の顔を見つめる。
しばらくして、ミラーに映った自分の目の周りを触っている。
またも、忌まわしい記憶がよみがえってしまう。
××× 診察室 ×××
「一生ですか?」
「はい。一生、光を感じることもできません。二度とカメラを覗くことも。」
「・・・手術・・・手術すれば見えますよね。ねぇ先生。私の目。・・・・
私の目・・・私の目は片方でもいい。先生、私の目の角膜を移植して
ください!」
「お気持ちはわかりますが無理なんです。右目は網膜はく離で完全に
ダメ、左目は瞳孔は大丈夫でも視神経が萎縮していてダメなんです。
角膜を移植しても見えないんです。」
「・・・そんな・・・彼の目は大事なんです。」
「とにかく今は、目よりも命を取り留めることが大事なんです。」
「・・・・そんな・・・・。」
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
七海は、ミラーに映る疲れ切った自分の姿を見て深いため息をつく。
「ふぅ~~・・・。」
気を取り直し、エンジンをかける七海。
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Posted by 幸(さいわいばし)橋 at 20:51│Comments(0)
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